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柚子日和。

#3  いつもと違う感覚

「あのー、立て看板ってどうやって立てたらいいんですか?」
「参加申請書類、今からでも間に合いますかっ!?」
「お茶漬けの出店出したいんだけど・・・・どうすればいいの?」
「施設使用願ってここへ提出したらいいんですか?」
「会計書類ってどうやって書くんでしたっけー?」

 いつもと違う人の出入りの激しい自治会室。そこから聞こえてきたのは幾つもの疑問の声と大声。

「立て看はこの書類記入してこの板に紙貼って書いてください。紙は実費」
「参加希望は明後日までなんで急いで書いて提出してくださいっ!」
「出店希望はこの書類に記入!」
「施設使用願は学生課!!」
「会計会議でました? 向こうに会計さんいるんで聞いて下さい」

 そこまで一気にまくしたてる柚香。
 それまで口々に叫んでいた学生たちはピタッと止まり、欲しかった答えをもらったのか、各々自治会室を出て行く。

「何もそんなに怒らなくても」

 部屋の端でずっと様子を見ていた杉本が呆れ顔で言う。

「だってもう何度も会議やって、ビラも配って、学内に案内の立て看も立ててるのに、今更いろいろ聞いてくる方が悪いんだよ。何度同じ返事を返したことか!!!! うきーっ!!」
「あ、退化してる」
「うきーっ!!!!!!」
「杉本くん、香月さんの神経逆撫でしないで。香月さんも机のもの投げないで。ほら、お茶入れるから一度休憩しようよ」

 うーッと唸りながらも阿里の"お茶"という言葉につられそうになっている柚香。
 コンコン。自治会室へまた来客が来た。柚香の様子など気にも留めず、杉本がドアを開けた。

「なんか騒がしいけど大丈夫?須賀沼 篤、今年も学祭実行委員しに参りました!」

 そう言ってドアの前で敬礼をする見た目軽そうな男子学生。

「あ、須賀っちだ」
「久し振りー。どう?学祭の準備進んでる?」

そう言いながら須賀沼を部屋の中へ入れた。

「少しずつね」
「学内に学祭実行委員常置していればこんなにバタバタすることもないんですけどね~」

 まだイライラの納まらない柚香を横目に阿里が答える。

「須賀っち、いい加減学祭実行委員会立ち上げようよ、本気で。こんな直前に実行委員集めるなんてキッツイ」
「俺も大学に何度も掛け合ってるんだけどね。『学祭前で十分』の一点張り。要は既に2つの自治団体があってこれ以上予算なんかないってことなんじゃない?」

 3人が一様に肩を落とした。
 須賀沼はそれを見て少し眉を下げ困った顔で笑い、机の上に広がった書類に目を通し始める。
 出店希望団体、当日警備のスケジュール・メンバー構成、イベントの準備、講演の準備……

「学祭常置して欲しいっていいながら結構進んでるな」
「出店団体集めただけで他の事はこれから。須賀っちよろしく」
「任せとけ。ここに来る前にビラの手配と当日警備のことはもうだいたいまとめてきたから。人数も集めてあるよ」

 片目をつぶって得意気に話す須賀沼。気障っぽい仕草も何故か型に嵌ってるんだよな……このヒト。
 出店団体をパソコンに打ち込みながら柚香は思う。

「3人共、学祭で何かやらないの?」
「あ~、仕事で手一杯。こっちの方が楽しいし」

 意外に、杉本はこの仕事を楽しんでやっていたらしい。いろんな人に毒吐きまくりな癖に。

「僕、ちょっと考えてますよ。あ、香月さんも手伝ってね」

 急に名指しされた柚香は驚き阿里の顔を見る。

「手伝いって……何するの?」
「それは聞いてのお楽しみ」

 いつになく何かを企んでいる表情の阿里。

「俺も楽しみにしてよっと」

 結局、一度も肩に下げた鞄を下ろさずに須賀沼は部屋を出る。

「あれ?もう行っちゃうの?庚がお茶入れてくれるんだけど」
「ちょっと学生課にこの計画書持って話してくるよ。お茶はそれから頂く」

 と廊下から須賀沼の声がした。

「須賀さん、仕事早いねー」

 と、もう機嫌の直ったらしい柚香が言う。

「じゃあ、お茶は須賀沼さん帰ってきてからにしようか。僕、準備だけしてくるね」

 そう言って阿里が自治会室を出た。

「もう最後なんだよね、須賀さん」
「わかんないよ、後1年いたりして」

 と笑う杉本。

「笑い事じゃないって」

 とはわかっててもそれが有り得るのでつられて笑ってしまう。自分たちもいつまでこうしていられるかわからない。
 今年は特別な学祭になりそうでわくわくした。


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