嘘のつくりかた
13.無口なライバル
「それで? コンペの準備は進んでるの?」資料室に向かおうと廊下に出たところで涼に捕まった。詰め寄られ気味に。
連れて来られた場所は休憩スペース。
なんでここなのと聞けば“日向にとって聞かれたくないことだから”と返ってきた。
ここ以外に話せるような適当な場所が思いつかないけれど、あまり近づきたくない場所でもあった。
「新倉の案を元に私の考えてたことを合わせて……」
「進んでるの?」
片肘をついて涼は真顔のまま、同じ言葉を繰り返す。
生半可な答えは彼女に通じないらしい。
「資料探ししかできてません……」
静かな勢いに圧倒され、敬語口調になってしまう。
「その資料探しだって、2人の考えすり合わせとかないと的外れになるんじゃないの」
「ごもっともです……」
淡々と正論を重ねられては何も返せなくなる。
あれから新倉とは口をきいていない。
「私にはわかりやすいくらいわかるのに。当事者ほどわかんないものなのね、きっと」
軽く息を吐いて涼は姿勢を崩した。
コンペは3ヶ月後。
資料探しもそこそこに企画に協力してくれる人材を探さなければならない段階だ。
今回は企画を立てるだけでなく、他部署といかに連携していいものができるかが争点になっている。
その前に新倉ともっと話しておきたいのに。本当にこんなことをしている場合ではない。
「何かあったの?」
新倉くんと。
言葉はなかったけれど本当はそう後に続くのだろう。
自分でも何故こうなったのかわからない。
まだ整理のつかないものを涼にどう話していいものか迷い、飲みかけのミルクティーの缶を眺めたまま答えた。
「わかんない……」
「幼馴染に聞くのが一番早いんじゃないの? 日向、仲良いじゃない最近」
相変わらず主語はないままだけれど会話は成立しているので涼はそう決め込んだらしい。
涼には物事をクールに捉えるところがある。言葉だけでは嫉妬しているように聞こえても本心は利害のみの場合が多い。感情に流されないところが羨ましい。
涼は質問の答えを催促しない。私も答えを返さない。別に我慢大会をしているわけではないのに。
ジーッという自動販売機の温度を保つ機械音だけが響いていた。
それまで口を開くまで待ってくれていた涼が耐え兼ねたように立ち上がった。
「あんた自身に何の否もないと思うなら堂々としてれば?」
はい、行くよと食堂へ向かう涼を足早に追い掛けた。
拍子抜けするくらいあっさりと畳まれた。そうだった、こういう奴だった。
けれど発破をかけてくれた友人の背中に小さくありがとうと呟いた。
*
「コンペのことで話したいことあるんだけどあとで時間取れる?」
パソコンに向かっていた新倉はこっちを向き、声を発さず胸の前で大きくバツを作ってまたパソコンに姿勢を戻す。
かと思えば私に向き直ることもなく首を振る。
そうされることに嫌気を通り越して苛立ちが増えてきたある日。
「おはよーございまーす」
なんとも間の抜けた挨拶がオフィスに響く。
それが新倉だと確認できるとパシッと彼の腕を掴んでオフィスを出た。
「手、痛いって」
茶化すこともなく、ただ放たれる言葉。
その雰囲気に負けそうになるのをなんとか奥に押しとどめる。
「なんで避けられてるのか教えてほしいんですけど」
目の前の無愛想な男に投げた。
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