背反アンビバレンス

瞬間メディアジャック

side Mochiduki.H
「だからもう一度練習メニューを見直して欲しいんです!」

 そうキャプテンに提案という名の直談判をしに行ったのは2週間前。

「選手にこんなに急激な負担の掛かるメニューはダメだ」
「けど強くなりたくないんですか?」
「それとこれとは話が別だ。お前、ちゃんと俺たちのこと考えてマネージャーやってるのか?」

 そう言われて売り言葉に買い言葉。話し合いになんてなるわけがなかった。
 そこからは悔しくてもう一度メニューを見直した。でもどこが悪いのか全然分からない。
 毎日本屋へ行って色々な本を物色した。サッカーの基本からプロがやっている基礎トレーニング、そこから高校生に向いているトレーニングetc・・・・・・。さすがに参考書を全部買うお金なんて持っていないし、部費から出るとも思えない。というか、そのことを部長に申請するのも「自分はこんなに頑張っているのに」ということをひけらかす様で今はしたくない。分厚い参考書は図書館で探してコピーした。
 落ち着いてメニューを見直してみるとキャプテンの言うことももっともだと痛感した。あのままでは基礎体力をつけるどころか、先に体に故障が出てしまうかも知れない。意地だけでメニューを作ってしまったことに反省した。

「一人で考えないでキャプテンと考えて決めたら」

 他人(ひと)の苦労も知らないで簡単にそう言い放つそいつはいつもあたしの神経を逆撫でする。またかと思い、私は言いたいことだけを言ってメニュー作成に戻る。
 ただ反論だけで終わらず冷静に正論を話す彼。どうせ否定されるだけだと思っていたのに。ポンポンと頭に置かれた手は荒っぽいけどふんわり優しかった。大丈夫、と後押しされたような気がして涙が出そうになるのを拳をギュッとして押さえ込んだ。

*

 その後再提案したメニューをキャプテンは受け入れてくれた。少しの手直しを条件に。そこは負けろ!
 妥協しないのがキャプテンのいいところだし、尊敬するところだ。それにそこを負けたら意味がない。

「西崎もこの間同じことを提案してきたんだ。"このままじゃ上に行けない、強くなれないからメニューを増やしましょう、この間の北高との練習試合の結果、悔しくないんですか"ってな。ただ感情のままに突っ走るだけの奴だと思ってたのに成長してるよな」
「何だかお父さんみたいですよ、キャプテン」
「いや、あいつ頑固なようで吸収すべきことはちゃんと素直に受け止めて吸収するから見てて楽しいよ」

*

「望月!」

 部室を出たところで西崎に呼び止められた。

「キャプテンとまたケンカしたのか?」
「大丈夫、冷静に話し合いしてきました」

 私が茶化した言い方をした為なのか、西崎は少し疑いの目を私に向けつつ「ならいいけど」と言った。

「次の土曜からメニュー厳しくなるから覚悟しなさいね」

 すると挑戦的な答えが返ってきた。

「望むところだ」

 そう言う彼の背中に小さく「ありがとう」と呟いた。


 教室に戻ると紺野がまだ本を読んでいた。時折聞こえてくるのはパラリという本のページをめくる音だけ。

「西崎に会えた?」

 視線は本のまま紺野が言った。

「うん、部室の前で。紺野、この間のメニューの件キャプテンOKしてくれた」

 言わなくてもいいことだけどお礼のつもりでに紺野に伝えた。

「そりゃ良かった」

 返ってきた答えはそっけないものだったけどまぁ、満足。
 パラリ。

「いつも何読んでるの?」
「色々。特に何かが好きというかあまりなくて。面白そうだったら何でも読むよ」

 紺野の机の上の本のタイトルを視線で追う。

「ファンタジー?意外だね?」
「よく言われる」

 ふっと紺野が少し相好を崩した。

「本って現実じゃできないこと体験できるから。その為かな」

 意外な答え。彼は現実主義だと思っていた。

「何体験したいの?」
「とりあえず今の自分じゃ体験できないことかな」

 珍しく皮肉の混じらない会話。彼と普通に会話できたことにも驚いた。
 机の上の本を手にとってめくってみる。彼の体験している世界に少し興味が湧いた。

「西崎と付き合ってんの?」
「何、いきなり」
「この間階段で抱き合ってたから」
「あれは階段でこけたところを西崎が助けてくれて。西崎がいなかったら今頃病院だった」

 訪れる沈黙。きっとまた呆れられてる。

「……だから様子おかしかったわけか。どこもケガしてなかったの?」

 予想外の答えに少し戸惑った。前半は独り言だったのかよく聞き取れなかった。気付けばさっきまで合わなかった視線がこっちに向けられている。

「落ちる前に西崎が止めてくれたからどこも打たずに済んだ」
「そう」

 短く答えた後はもう、本に戻っていた。パラリとページをめくる音がした。

「西崎と同じで誰かさんも突っ走る性格みたいだからね。いつも一緒にいると性格まで似てくるんだな」

 いつもの皮肉めいた会話だ。でも少し棘を含んでいるような。

「サッカー部のマネージャーだし必然的にいる時間は多いかも。そのせいかな。誰かさんと違って同級生が危ない目に合っていても無視して通り過ぎることもないし」
「それはに・・・・・・いや、何でもない」
「え?」
「日直でもないんだし早く帰れば?また雨に降られる前に」

 気になる言葉の後を聞き返す暇もないまま、紺野はそのまま帰っていった。

例えば裏の裏は表であるような


 雨?降るわけない。雲一つない晴れなのに。
2015/01/07 こっそり修正

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