集団インソレーレーション

瞬間メディアジャック

side Nishizaki.T

 一年前の秋頃。
 今までマネージャーなしにどうやってこれたんだというくらいの部の雑務が溜まっていた。サッカーをやる為にここに入ったんだ、という奴も少なくなかった。俺だって。かといって、キャプテンに逆らえる人間はいなかった。
 1年生、2年生関係なく持ち回りで備品や書類の整理をやっていたがとうとう自分たちではどうしようもなくなってきた。そんなとき、臨時のマネージャーとしてやってきたのが望月だ。
 ここに来てからすぐの彼女はキャプテンについて部内のことを教えられていた。その間も持ち回りで雑務整理は進められていて、今週は俺ともう一人同級生が担当のはずだった。そのもう一人は季節先取りのインフルエンザ。
 ホントに終わるのか?これ。そろそろ3週間になる雑務整理。先の見えない終わりにうんざりしていた頃。
 ガラガラ。クラブボックスの戸が開く音に振り向いた。

「あれ、どうしたの?」
「キャプテン命令で手伝いにきた」

 俺たちは黙々と片付けを始めた。彼女は文句も言わずあれから1週間通い続けてくれている。
 キャプテンが連れてきた彼女は隣のクラスで顔を見たことはあったがそれまで話したことはなかった。

「望月さんどうしてうちに来てくれたの?」
「キャプテンの妹に頼まれたの。妹とは中学からの友達でサッカー部のことは聞いていたから」
「キャプテンに妹いたんだ!なら妹に頼めばいいのに」
「彼女曰く"杳(はるか)には悪いけど兄の手助けはしたくない"んだって」
「でも結果してるよな」
「そうなのわけわかんないよね」

 まぁ、あのヒトに手助けしたくない妹の気持ちは分かるけど。

「うちの部、キツくない?仕事量半端ないし、望月さんに頼んで来てもらってるのにうちのキャプテン誰分け隔てなく厳しいし。平等の意味履き違えてるよ、あのヒトは」

 彼女に何だか申し訳ないのと普段の不満もあって次から次へと言葉が飛び出す。彼女が少し苦笑しながら答えた。

「妹の方からすごいよって聞いててある程度覚悟はしてたんだけどね……それ以上でびっくりしてる。でもサッカー楽しいし、私向いてるかも!」

 そうして話している間にも仕事は1つずつ片付いていった。俺の方が在籍期間は長いはずなのに彼女の方が手馴れている。

「正直、ただボール追いかけるだけの競技だと思ってた」

「こんなに一生懸命やってるのにひどいなー」
 少し冗談交じりに茶々を入れる。彼女は笑っていた。楽しそうに。

「ごめんごめん、それぞれ役割分かれてて意外と奥深いんだと思って感心した」

 驚いた。

「この仕事量の中、そこまで見てくれてたの」
「サボってたのバレたら怒られるから内緒にしといてね西崎くん」

 そう言って笑う彼女の顔から目が離せなくなった。
 それから更に一週間後。雑務整理は無事終わり、望月はサッカー部の正式なマネージャーになった。

 望月の予告通り新メニューは次の土曜から始まった。今までとは比べ物にならないくらいキツイ。そのはずなのに不平をこぼす部員は出てこなかった。
 休憩になり、マネージャーが一人ひとりにドリンクを渡してくれる。 俺はそれを受け取りながら目の前のマネージャーに「このメニュー考えた奴性格悪いよな」と呟いた。

「どうして?」
「俺らの弱いとこばっかりついてくる。意地が悪い」

 望月の唇が何か言いたげに形をつくる。

「でも、よく見てるんだろうな俺らのこと」
「まぁね、付き合い長いしね」
「え?もしかしてお前?うっわ性格悪いって言っちゃった」

 彼女だろうと思った。

「ちゃんと聞いた」

 唇を尖らせ望月が俺の手の中のドリンクを奪った。

「ちょっ、謝るからそれ返して望月」
「やだ」
「だって俺それ好きなんだもん」

 望月も含めて。
 ふいに顔が赤くなる望月。褒められることに慣れていないらしい彼女は部員の誰が感謝の気持ちを伝えてもすぐ照れる。そんな彼女が密かにかわいいと言われているのは本人にはもちろん内緒だ。だから、俺だからというわけではない。

「仕方ないな。今回は許す」

 まだ少し照れがひかないのか少しうつむき加減で俺へドリンクを差し出した。

「やった、サンキュ」

一緒にいるのに寂しいのはどうして?


 この気持ちも彼女に伝わればいいのに。

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